読んだ:Layne, C. (2018). The US–Chinese power shift and the end of the Pax Americana. International Affairs, 94(1), 89-111.

Layne, C. (2018). The US–Chinese power shift and the end of the Pax Americana. International Affairs, 94(1), 89-111.

またまた仕事中暇だったので読んだ。

アメリカの一極覇権状態が終わりそう、という論文。コロナ前の分析なのでちょっと外れてる箇所もあるが、面白い。

今の情勢を見て普通の人はアメリカ覇権の終わりを感じると思うのでタイムリーな話題です。

原文(pdf):https://www.chathamhouse.org/sites/default/files/images/ia/INTA94_1_6_249_Layne.pdf

 

---以下概要--

パックス・アメリカーナ第二次世界大戦後、アメリカのGDPが世界の半分を占めた時代に始まった。アメリカは国連、NATOIMF世界銀行WTOを作って、アメリカにとって都合の良い世界支配体制を構築した。しかし、その世界支配体制が揺らぎつつある。格差拡大や人種問題といった内的な要因と、中国の台頭という外的な要因があるが、ここでは後者について詳しく考える。

アメリカのパワーの重要な構成要素は、①軍事力②経済力③国際制度④ソフトパワーの4つに分けられる。

①軍事力については米中には現在差があるが、その差は急速に縮まっている。また、アメリカは世界覇権を目標としているため、中東・ヨーロッパ・東アジアの3地域を支配しなければならないが、中国は東アジアおよび東南アジアにおける地域覇権を目指している。このことを考慮すると2020年代は東アジアにおいて中国が有利になり、現状に挑戦できるようになると予想されている。

②経済力の差は縮まっており、すでに購買力平価(purchasing power parity, 参考:世界の購買力平価GDP(USドル)ランキング - 世界経済のネタ帳)で測ると中国が1位である。また、名目GDPで測っても2020年代半ばには中国が1位になると予想されている(※コロナの影響などもあり、現在はもう少し先になるという予想が多い。)。アジアの国々は米国よりも中国との貿易が多くなり、経済的にはすでに中国の勢力圏に入っている。

③国際制度の面では、第一に現状の枠組み(IMF世界銀行G20など)の中で中国の力が強まっている。第二に、中国は米国主導でない独自の枠組みを作り始めている。アジアインフラ投資銀行上海協力機構、一帯一路などがその例である。

ソフトパワーの面でも、アメリカは力を失いつつある。アメリカが推奨してきたワシントン・コンセンサスはリーマンショックにより失敗であることが明らかになった。逆に中国の権威主義的資本主義(market authoritarianism, 参考:Authoritarian capitalism - Wikipedia)が成功したことにより、アメリカがソフトパワーを独占する状態ではもはやなくなっている。

以上から、アメリカはいずれ覇権国の地位を失うことになる。とはいっても、すぐに中国がグローバルな覇権国になるわけではなく、地域的な覇権国になるということである。中国はいずれアメリカに有利な現在の国際秩序を変更しようとするだろうが、アメリカがそれを受け入れられなければ、米中戦争が起こる可能性が高い。